医学班(A01-1)

研究課題名:スパースモデリングを用いた新しい医用MRI画像の創生

研究代表者:富樫かおり(京都大学大学院医学研究科 教授)
研究分担者:岡田知久(京都大学大学院医学研究科 講師)
研究分担者:山本憲(京都大学大学院医学研究科 助教)
研究分担者:伏見育崇(京都大学大学院医学研究科 助教)
研究分担者:藤本晃司(京都大学大学院医学研究科 助教)

研究概要

三大成人病(脳卒中,心筋梗塞,がん)に代表される多くの疾患の最終診断は病変部を顕微鏡レベルの空間分解能で評価することで決定されるが,標本採取が侵襲を伴うため不可能な場合も多く,非侵襲的にミクロレベルに迫る画像診断法が求められている.磁気共鳴画像(MRI)は多彩な生命現象を非侵襲的に可視化する技術であり,現代の医療で欠かせないが,時間分解能・空間分解能ともに細胞レベルでの生命現象の在り方,病態を観測するために十分とはいえない.本研究は近年発達著しい圧縮センシングにより,MRIの空間的・時間的分解能を向上させ,非侵襲的な構造の可視化と機能の可視化を通じて,画像による疾病の診断能を向上させ,早期治療と予防への貢献を目指す(図1).

本研究の背景と着想に至る経緯

MRIでは生体内に多数存在する水素原子核を外部磁場と高周波(RF波)で操り,水素原子核がうみだす磁場の変化を信号として取り出したのち,フーリエ変換で画像化している.圧縮センシングはMRIの画像再構成にウェーブレット変換などによるスパース化を利用することで,アーティファクトを増やすことなくデータの間引き収集を可能にするというものであり,MRIの高速化に新たな革新をもたらす技術として注目を集めている(Lustigほか,MRM 2007).
 我々は高血圧の患者において大脳基底核血管の描出が低下している事を報告しているが、このさらに詳細な描出を目指し、昨年より計測モデリング班(B01-1)田中と基礎的な実験を開始,予備的な結果も得られている(図2).その過程で,先行研究で報告されている手法で残差を最小化するだけでは目的とする病変の描出につながらないことが判ってきた.しかしながら,工学的視点とこの技術をどのような病態へ応用するかという医学的視点を融合することで、病理組織の微細構造(例:微小血管)や組織ごとに異なる特徴(例:組織灌流)を失わない画像再構成手法が開発できるのではないかと考えている.本研究では,医学領域でこれら異なる視点の融合を図り,NMR や他の自然科学領域との協働も見据え,新たな学術領域の開拓を目指すものである.

本計画研究の目的

国民医療における大きな問題である三大成人病(脳卒中,心筋梗塞,がん)は,全て疾患発生過程で血管に異常がみられるが,疾患に関与する機序は各々異なる.我々は血管や血流の信号にみられるスパース性に注目して,具体的な臨床適用課題とそれに対応する技術的課題を設定し,順次その解決をすすめてゆく.

【課題1】脳卒中:空間的なスパース性を活用した3次元脳血管画像の高分解能化・撮像高速化

脳血管画像の空間的なスパース性に注目し,臨床的に重要な微小脳血管の可視化を研究する.また,スパース性と間引き率,基底の関係を明らかにした上で,高速撮像技術を開発する.

【課題2】心筋梗塞:周期的に動いている被写体の高速撮像

 心臓が周期的に収縮する臓器であることに注目し,データの時間方向のスパース性に適した撮像法ならびに再構成手法を開発する.

【課題3】がんの微小環境:モデルに基づくデータ解析を前提とした撮像法の開発

 がん組織のMRIでは,がん組織とその栄養血管の信号が造影剤により高信号となる経時変化に注目し,モデルに基づいた解析(薬物動態解析)を行っている.【課題1】と【課題2】で得られた知見に加え,スパースモデリングの手法も用いて解決法を探り,時間・空間的分解能の向上を図る.