惑星科学班(A02-2)

研究課題名:スパースモデリングが拓く太陽系博物学:ハヤブサ後の小惑星探査戦略の創出

研究代表者:宮本英昭(東京大学総合研究博物館 准教授)
研究分担者:杉田精司(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授)
研究分担者:栗谷豪(大阪市立大学理学研究科 准教授)

研究概要

人類は既に100機以上の太陽系探査機を打上げ100テラバイト以上ものデータを得ている.しかしこの解析において,「膨大な量のリモートセンシングデータが,対象物の物質科学的実態へと結びつけるのが困難である」という共通の問題を抱えている.本研究は,この状況が顕著である小惑星科学に対し,高次元観測データから説明変数を自動選択するという「スパースモデリングによる手法」を開発・適用し,太陽系内における物質分布の解明を目指そうとしている.

本研究に関連する国内・国外の研究動向及び位置づけ

探査機「はやぶさ」による小惑星イトカワのサンプル採取を通して,低精度だが広い空間スケールを網羅できる反射スペクトルの地上観測データに,地上分析でのみ得られる超高精度の元素組成データを対応付けられることが示された.つまり他の多様な小惑星の観測に物質科学的根拠を与えることができれば,太陽系の物質分布の理解は飛躍的に進むと期待される.これまで小惑星は,反射スペクトルの形状から約30種に分類され,一方で隕石も元素組成などから70種に分類されてきたが,両者の対比は容易ではない.これは,小惑星の分類の根拠となるスペクトルが波長幅の制約や宇宙風化による平滑化の影響,多様な表面状態や内部分化の可能性を含んだ観測量であり,ピーク値や形状で議論できないためである.

これまでの研究成果を踏まえ,着想に至った経緯

こうした問題を解決するため,私達は反射スペクトルの基底関数分解の問題に取り組んでいる.局所最適解の存在という難題に対し,ベイズ推定の手法を取り入れることである程度解決できる可能性を既に示してきた.このアプローチは,データが限られている鉱物や新発見の隕石物質を扱う場合に大きな優位性がある.そこで本研究計画では,ガウス関数分解法を更に一般的な関数分解法に発展させ,さらにクラスタリング解析の手法を発展させることにより,多種多様の隕石物質および小惑星データを対比させることで、太陽系内の物質分布に関する理解を進めようとしている.

本計画研究の目的

本計画研究は,スパースモデリングを用いて客観的かつ網羅的な解析を行うことで,隕石分析および小惑星観測で得られる膨大なデータを対象として,少数の説明変数を選別しそれぞれの直接的な対比を試みる.そのため以下の三つの課題を設定する.

【課題1】隕石の元素組成データベースの構築

過去に出版された分析値を収集し,新規に隕石を分析して隕石の全岩元素組成のデータベースを構築する.

【課題2】スペクトル・データベースの構築

隕石と小惑星のスペクトル・データベースを構築する.前者は既に米国ブラウン大学(RELAB)で公開されているデータに,隕石の3μm帯も含めた計測結果を追加することで行う.後者は公開されている地上観測分光データを収集し,赤外天文衛星AKARIのデータを追加するなどの形で,3μm帯を含む総合的な小惑星分光データベースを完成させる.

【課題3】スパースモデリングによる隕石・小惑星データ統合

上の新たな3種のデータベースに対して,スパースモデリングの手法を用いて小惑星及び隕石の物質的対応関係を明らかにする.その後元素分析結果を加味して,小惑星分布から小惑星帯に於ける物質分布マップを作成する.