物理モデリング班(B01-3)

研究課題名:物理モデリングとスパースモデリングの融合による自然法則の抽出

研究代表者:福島孝治(東京大学大学院総合文化研究科 准教授)
研究分担者:大森敏明(神戸大学大学院工学研究科 准教授)
連携研究者:藤堂眞治(東京大学大学院理学系研究科 准教授)
連携研究者:中西義典(東京大学大学院総合文化研究科 助教)

研究概要

これまでの自然科学は実験により自然現象を法則として切り出し,理論的に基本法則を見出すことにより発展してきた.さらに,計算機を用いたシミュレーションは複雑な理論モデルの解析を可能とし,これらの三つの方法をつき合わせながら自然現象を理解してきた.しかし,近年の実験・測定技術の発展に伴い,高次元データが取得されるようになると,自然現象の整理自体が容易ではなくなり,三つの方法をつき合わせるポイントを同定することが困難となっている.

本計画研究では,スパースモデリングにより高次元自然科学データから重要因子を抽出し,解析目標を明確化し,理論・シミュレーションの物理モデリングとの接点を探ることにより,自然法則を抽出する普遍的なモデリング原理の構築を目的とする.

本研究の背景と着想に至る経緯

上記のように高次元の実験データの有効な解析方法が望まれている一方,理論モデルのシミュレーションも全原子シミュレーションに代表されるように大規模化が進み,得られる高次元データと実験との間で比較検討することが難しくなってきている(図1).これまでに実験・シミュレーションデータの多変量解析は試みられているが,それぞれが個別的に研究されているのが現状である.我々はベイズ統計に基づく推定をデータ解析に利用するうちに,自然科学の研究方法に対するニーズは,データからの重要因子の抽出のみならず,抽出された重要因子の意味や重要因子間の関係性を理論モデルから理解することにあるとの認識に至る.そのためのデータ駆動科学の方法の普遍的なモデリング原理をスパースモデリングを基礎として確立することが重要な研究課題であると考える.本研究では,高次元データからスパースモデリングにより重要因子を抽出する系統的なスキームの確立を目指しており,それにより,はじめて実験から理論モデルへのフィードバックが可能となる.

本計画研究の目的

本計画研究は,スパースモデリングを基本として,自然法則を抽出するための時空間データ駆動による普遍的なモデリング原理の構築を目的とする.そのために研究方法の典型ケースを具体的に示すことが重要と考え,空間構造の形成法則の抽出,時間発展ダイナミクスの抽出,それらを融合する時空間ダイナミクスの抽出に対応する以下の三つの課題を中心に研究を進めていく.

【課題1】走査型トンネル顕微鏡(STM)のスパースモデリング

STMは物質表面を原子スケールで直接観測する実験技法である.そこで得られる画像データから表面物質の空間構造を支配する自然法則を抽出するモデリング方法を開発する.本研究では,実験とシミュレーション結果の両方にスパースモデリングを適用し,抽出した重要因子の比較により理論モデルの再構成を図る.これにより図1の概念を具現化する典型例を示し,自然科学の画像型データの解析法の基盤を固める.

【課題2】カルシウムイメージングのスパースモデリング

カルシウムイメージングなどの計測技術により脳神経活動の時空間応答の直接観測が可能になってきた.本研究では,イメージングデータのスパースモデリングにより特定の神経素子とその素子間の相互作用を重要因子として抽出し,脳神経システムの時空間ダイナミクスを推定する方法を開発する.同時に,物理過程を取り入れた理論モデルの定式化とシミュレーションデータのスパースモデリングを行い,重要因子の比較から理論モデルの構築方法を開発する.

【課題3】岩石形成ダイナミクスのスパースモデリング

【課題1】,【課題2】で構築された方法論は様々な自然科学の問題に応用できることが期待されるが,特に岩石形成に注目し,その形成ダイナミクスを支配する自然法則の抽出に応用する.岩石形成過程を顕著に反映する化学組成を実験データのスパースモデリングにより重要因子として抽出すると同時に,反応・拡散過程を取り込んだ理論モデルのシミュレーションのスパースモデリングを並行して行うことにより,物理過程の詳細を明らかにする.